投稿者:Oko

Serge Gainsbourg, vie heroique

先日、私が好きなフランス人アーティストの一人であるセルジュ・ゲンズブールの伝記映画『Serge Gainsbourg, vie heroique』を観てきた。彼の歌を評価するか否か、好みは別にするとして、天才的な人間というのは時々存在するものなのだと思わずにいられなかった。

フランスの漫画家ジョアン・スファールが監督を務めた同作品は、アニメーション映画の手法で演出が手掛けられており、想像以上にコミカルなタッチで作られた世界に入り込むまでには若干時間が掛る。しかしながら、スクリーンの背景にゲンズブールの幼少時から死までの数十年もの時間と、その時代時代の流行が次々と現れ、それに合わせてゲンズブールの数々のレパートリーが流れると、逆にそのコミカルさが少し妖しいゲンズブールの生き写しを蘇らせていることが分かった。

私の周囲には本作品を観たフランス人の友達も多く、誰もが口を揃えて「想像以上に良かった!」と言っていたのは印象的だ。確かに私自身、見終わった時には、まるで生前のゲンズブールを生で見たかのような感覚で映画館を後にすることができた。映画が終わりに近づくに連れ、主演のERIC ELMOSNINOがどんどんゲンズブールと重なって見える、これは観た誰もが口にした意見だ。

監督スファールはバンド・デシネのニューウェーブにおける重要なアーティストの一人として知られる。今回の作品もゲンズブールの伝記映画というよりは、ジョアン・スファールがゲンズブールを題材に作ったフィクションと言った方が良いかもしれない。事実、ゲンズブールの妻でもあったジェーン・バーキンは同作品に対して否定的な意見を述べている。

たとえば幼少期のゲンズブールはとても内気な子供であったと言われており、作品の中で描かれているような「パリの町を我が物顔で闊歩する生意気なガキ」というのは、スファールが作りだしたゲンズブール、もしくはスファールが望んだゲンズブールの子供時代の姿と言ったほうが良いかもしれない。作品の中のゲンズブールはスファールにより豹変したのだろうか。

しかしながらその後の人生で、絵画において並はずれた才能を現し、また歌手としてスターの地位を築いても常に数々の挑戦を続けたゲンズブールの姿がスクリーンに映し出されると、これがフィクションでもノンフィクションでも構わないような気がしたのは正直なところだった。

20世紀後半のフランス音楽界に大きな影響を与え、死後もなおカリスマ的存在で君臨し続けるゲンズブールは、大衆音楽とアンダーグラウンドな世界の間に隔たりをつくることなく、強烈な作風で常にセンセーショナルな作品を生み出した。社会規範にインスピレーションを得て、それをわざと曲げ、言葉を巧みに操り、人々の反響を呼ぶようなメッセージ性ある作品で、良くも悪くも、同時代に生きたアーティストや若者に影響を与えた彼の作品は、今日も尚、どのようなアーティストも超えることができないゲンズブールならではの才能の結晶と言えると思う。

因みに、今作品でジェーン・バーキン役を公演しているLucy Gordonは昨年5月20日に恋人と暮らしていたパリ市内の自宅で首を吊って自殺した。(「ロシアン・ドールズ」や「スパイダーマン3」に出ていた女優と言えばお分かりになる方もいるだろうか。)そのことを事前に知っていて観ただけに、映画の中でLucyが演じる、ゲンズブールを支えるけなげなバーキンになんとなく異常な同情をしてしまった部分があった。

日本で公開される暁には、ゲンズブールファンのみならず、戦後のフランスや、フランスのシャンソンに興味ある方にも是非見て頂きたい作品である。