投稿者:M.MK

オペラ座の主役(中)

(承前)『椿姫』の時代、あるいはそれ以前は、貴族たちが(タニマチのように)演劇の庇護者として金をつぎ込み、劇場さえも建てる時代であり、主役は舞台の役者ではなく、客席で社交をする貴族が主役だったようだ。その当時、客席は暗転することなく、舞台と同様に明るかったのである。大体、舞台脇の桟敷席などは舞台自体はほとんど見えないというのだから、舞台の役者よりも目立とう、と考える客のための席でしかない。芝居はそっちのけで、自らの衣装を見せびらかし、社交をし、またお目当ての「観客」を探して、見とれ、贈り物をする、というわけである。客席の自分たちが劇場の主役だったのである。舞台の役者は、劇を見ようとない客に対して、苦情を漏らしていたというくらいで、今の観劇スタイルから見れば滅茶苦茶な様相を呈していたようだ。文楽では(歌舞伎も?)『仮名手本忠臣蔵』の切腹の場面では「通さん場」という出入りが禁止の幕があり、遅刻すると入れないし、退場もできない場面がある。人が腹を切っているところで扉がバタバタいっていては見る側も興醒めであるし、演じる方もそうでないとやりづらいというのは理解できる気がするが、オペラなどは悲劇的な場面で、観客席からは劇の進行とは関係のないところでゲラゲラと笑い声が上がたり、という喜劇的様相を呈し、役者はがっかりしたようである。(またまた続く)